―このまちの「今」を見つめて
一家で、東京から越前海岸にIターンで移住して3年が過ぎました。人口は少ないながら、東京にいたときの何倍ものスピードで、私や家族を支えてくれる人との出会いに恵まれ、気が付けば大切な友人知人にぐるりと囲まれています。都会の友人たちも福井まで訪ねてきてくれたり、離れていても応援してもらっており、多くの人に支えられて今の自分があります。
福井の暮らしの中で見つけた、はっとさせられるような風景の数々。例えば、田園風景が点在する丘の上から望む丸みを帯びた水平線とそこに沈む夕日、1千万年以上も昔の地殻流動の歴史をそのまま剥き出しにしている荒々しい表情の岩々、島々が続く海岸といった、ここでしか見られない景色です。海辺ならではの食文化はまだ味わっていない人たちに届けたいし教えたい。でも、とっておきの場所は内緒にしておきたい。そんな複雑な思いを抱えています。
3年という歳月は短いけれどとても濃かったです。生まれ育った環境と全く違う所へ来ましたが、人や景色、事や物など全てが刺激に満ちあふれていました。
越前海岸はかつて、観光地としても人気が高く、商店街は賑わい、活気に満ちていたそうです。しかし、加速的に人口が減って限界集落も発生し、観光客は少なくなってしまいました。多くの人にとっては、嶺北の海岸線として、通り過ぎてしまうルートかもしれません。
越前海岸では、漁業関係者や海の生き物の専門家、ガラス作家など個性あふれる人たちが、一度は故郷を離れても福井に帰ってきて活躍されています。また、私たち家族のようにIターンでここに住むことを決めた人たちは何人もいます。そういった人たちがつながって、独特な文化を形成しつつあると感じています。
この連載では、越前海岸の「今」を素直に見つめ、海辺のまちの素朴な価値が伝わるような内容を執筆できたらと思っています。
今回の木版画は、3年間とてもお世話になった船長さんの船、「豊龍丸」。夏には子どもと一緒にキジハタ釣りに乗船させてもらったりしました。
※この記事は、2023年4月20日に掲載された日刊県民福井の連載「越前海岸からの版画ゆうびん第1回」の原文です。