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越前海岸からの版画ゆうびん 第3回

―見守り続けたい風景

越前海岸の港町の一つである、大丹生町に、大きなクロマツがあります。

「能登家の松」と名が付いていて「景観重要樹木」に指定されています。枝ぶりも見事で、どこから見てもとても美しい松の大木です。日々刻々と変化する海や夕日の色彩とともにこの地の風景を一層美しいものにしています。

この立派な松の木が、ある日、切り倒されてしまうという夢を見たことがきっかけで、生まれ故郷であるここに帰ることを決意した人がいます。越前海岸の高台から海を見下ろす、素晴らしい景観の立地に、吹きガラス工房「ワタリグラススタジオ」があります。その工房を構えて12年になる、吹きガラス職人の長谷川渡さんです。ここで暮らし、この土地の風景をこの地で見守りたい、そんな想いが、奥さまの陽子さんとともに、ここでガラス工房を構える動機づけとなったというのです。そのようなエピソードは、私の中でとても強く印象に残っています。

「能登家の松」だけでなく、越前海岸のあちこちにある松の木々の存在感は、ここを通り過ぎるだけの人にとっても魅力的に映るところだと思うのだけれど、幼い頃からの数々の思い出とともにある、この松の木々のある海辺の街並みを心象風景のように思っている人は、きっとたくさんいることと思います。

この松の木が、近年マツクイムシの被害を受けたり、護岸工事などの影響を受けたりして、姿を消してしまっている個体も少なからずあると聞きます。能登家の松はもちろん、越前海岸の松の木々たちが一本でも多く、健やかにここの風景の中にあり続けてくれることを願うばかり。そして長谷川さん夫妻のように、この地を愛する人たちが営むガラス工房のような存在もまた、誰かの思い出のシーンを作り続けていることになっていて、それこそが、ここ越前海岸の魅力の一つであると思います。

このガラス工房で、海を背景にガラス作品をゆったりと眺める時間は、きっと誰にとっても幸せな時間となるに違いないので、まだ訪れたことのない方にはぜひ、遊びに来てほしいです。

※この記事は、2023年6月15日に掲載された日刊県民福井の連載「越前海岸からの版画ゆうびん第3回」の原文です。

この記事に出てきた人

隊長 / WATARIGLASS studio 長谷川渡

国見地区出身で、一度故郷を離れるも、Uターンして戻ってきた。
WATARIGLASS studio を運営する吹きガラス職人であり、我ら越前海岸盛り上げ隊の隊長。尖った人物の多い隊員達をまとめるだけあって、その眼差しは鋭いが、時にお茶目な一面も見せる。決して口数は多くないが、情熱を内に秘め、過疎化が進む越前海岸エリアの振興に尽力。

隊長補佐 / WATARIGLASS studio 長谷川陽子

大阪府出身で、隊長長谷川渡と結婚し、Iターンで移住した。
自身も WATARIGLASS studio の吹きガラス職人でありつつ、仕事に、家庭に、地域活動にと、夫と二人三脚で越前海岸エリアの振興に尽くす博学・聡明な妻。

この記事を書いた人

版画ゆうびん舎 おさのなおこ

2019年末頃、東京都町田市からIターンで移住。
版画ゆうびん舎を運営し、版画作品、版画を使った日用品・デザイン等を制作し、地域に開かれた版画教室を主催。2019年~2022年は、越廼・国見地区の地域おこし協力隊に就任し、ガラス作家で隊長の長谷川らと共に、古民家「はりいしゃ」でアート関連事業を数多く手掛ける。