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田中彰さん「はりいしゃ」滞在制作

越前海岸盛り上げ隊の、地域交流施設「はりいしゃ」ですが、今、アーティストさんとの関わりが少しづつ生まれています。

今回「はりいしゃ」で滞在制作をしていただいた田中彰さんは、自然と人との関わりをテーマに主に木版画で表現され続けてこられた方です。

日本各地の美術館との共同企画を多く手掛けられ、その時々に出会うモチーフと深く対話をされる制作スタイルはとても魅力的であり、生み出されてきた作品たちは彼の探究心や世界観そのものであり、見る人の心に深く響くものばかり。今後のご活躍に注目されている若手作家です。

昨年の12月、茨城県のアトリエから越前海岸にきてくださり、オープンスタジオを開催してくださいました。

滞在制作のきっかけ

遡ること2019年。東京都町田市にある「町田国際版画美術館」が、「町田えごのき縁起」という田中さんの展覧会を開催していました。

子供たちが木登りを楽しんだエゴノキから切り出した版木には作家が町田での取材から得たイメージが刻まれていきます。「きのおくのきおく きおくのおくのき」に耳を澄ませて作られた作品は、一本の木が積み重ねた年月と、人と木との出会いを包み込み、新たな縁を結んでいくことになるでしょう。作家がエゴノキと対峙して生み出した新作を発表するとともに、エントランスホール内の特設スタジオにて会期を通じて滞在制作する《町田芹ヶ谷えごのき縁起絵巻》を参加者とともに作り上げます。

〜町田国際版画美術館webサイトより

その時、あまりにも(執筆者おさのが)作品世界に魅了されてしまい、いつか福井へも来てください、とお願いしていて。さらにここ最近田中さんが追求されているテーマとして、自ら捕らえた魚をモチーフにして版画を制作していくことに取り組まれていらして、ご本人からも、越前海岸に行ってみたいというお声をいただいたので、今回の企画が実現しました。

越前海岸へようこそ。

越前海岸に到着されたその日から、モチーフに出会うべく、越廼を拠点に、国見、鷹巣、と、魚が釣れそうな場所を探索しはじめ、岩尾醤油の岩尾さんや鈴木さんにも、とっておきのスポットをご案内していただくなど、初めての北陸、初めての越前海岸を、釣り糸を垂らしながら全身で感じていただきました。

彰さんの作品制作は一貫して、モチーフを自ら手に入れるところから始まる、というスタンスなので、なにしろモチーフが得られないことには、作品作りが始まりません。短い滞在期間でちゃんと魚を入手できるかな、という当初の不安もよそに、かなり早い段階であっさりと?70㎝をこえるスズキを含む個性豊かな魚たちを、ほとんどぐみざきの漁港で、たったお一人で釣り上げられました。

描くモチーフが手に入ったら、スケッチするように、魚を板木にうつしとります。

彰さんはこの版木を、彫刻刀と電熱ペンで彫ってゆきます。

12月19日オープンスタジオ

自然光が美しい、はりいしゃの廊下が展示会場に。ここ1、2年の間で彰さんが手掛けてこられた魚たちやタコやイカ、かにの作品が並びました。彰さんが自らとらえたりして対峙した生き物たちは、全て原寸で描かれます。

オープンスタジオの企画では、これまでの作品の展示とともにワークショップを開催し、田中さんの、電熱ペンを用いての木版画制作を参加者さんに体験してもらいました。

ワークショップはまず、はりいしゃから徒歩5分の越廼海水浴場まで歩いて行ってもらい、モチーフを手に入れるところから始まりました。

結構な悪天候だったのですが、それにもめげず、これは、と思う漂着物をそれぞれ見つけてもらい、はりいしゃに持ち帰ってもらって制作に入ります。

色々な漂着物が落ちている、この時期の浜辺。

この日は、「アミモンガラ」という魚が多く打ち上げられていて、これを描いた方が多かったです。

彫りが完成した方から、インクを乗せ、滞在初日に彰さんと和紙の里で仕入れた和紙に、バレンで摺ってもらいます。

皆さんの作品、とても素晴らしかったですし、「とっても楽しかった!」とのお声を多くいただきました。はりいしゃの居心地もよくて、この場所のファンもできたのではないかと思われます。

はりいしゃキッチンのこと

はりいしゃのかわいいキッチンでは、志野さんのお塩やタコ、岩尾さんのお醤油、とともに、釣り上げられたスズキから、アミモンガラまで!越前海岸の食材をご自身で調理され、食されることも大いに楽しんでいただけたようです。

今回の滞在では、はりいしゃの魅力をいろんな角度で味わっていただき、短い期間でしたが、こちらも教わることが多く、越前海岸の魅力も再発見できました。

今後また楽しい企画ができるようにしたいと、夢が膨らみます。

製塩所の志野さん初め、盛り上げ隊メンバーとの交流も生まれました。

はるばるお越しくださった彰さん、オープンスタジオにおいでくださいました皆様、この度は本当にありがとうございました。

越前海岸盛り上げ隊の、地域交流施設「はりいしゃ」ですが、今このようなアーティストさんとの関わりが少しづつ生まれています。
独創的な感性で、表現者の方達にこの場を体感していただくことで、この地の魅力をそれぞれの表現の場に持ち帰っていただき、さらに、遠い地の方達にも味わっていたただく機会が増えると良いです。

今、東京恵比寿のNADiff a/p/a/r/t にて、田中彰さんの個展「恵比寿湖」が開催されています。
越前海岸の魚たちも、ギャラリーのメインの奥の壁面に展開されているとのこと。越前海岸の個性豊かな魚たちと出会うチャンスでもありますので、関東にお住まいの方、ぜひ足をお運びになってみてください。

恵比寿NADiff Galleryにて

  • 田中彰 個展 「恵比寿湖」
  • 2022.02.03(木)-2022.02.20(日)
  • 営業日:木、金、土、日、祝
  • 営業時間:13時-19時
  • NADiff a/p/a/r/t
  • 150-0013
  • 東京都渋谷区恵比寿1-18-4
  • TEL:03-3446-4977

この記事を書いた人

版画ゆうびん舎 おさのなおこ

2019年末頃、東京都町田市からIターンで移住。
版画ゆうびん舎を運営し、版画作品、版画を使った日用品・デザイン等を制作し、地域に開かれた版画教室を主催。2019年~2022年は、越廼・国見地区の地域おこし協力隊に就任し、ガラス作家で隊長の長谷川らと共に、古民家「はりいしゃ」でアート関連事業を数多く手掛ける。