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山羊の放牧プロジェクト – 始動

耕作放棄地に山羊を放ち、産業を作る・・・。毛刈り体験牧場や農家レストランの壮大な構想を、農家民宿のオーナーが綴ります。

皆さん、こんにちは。福井市越前海岸盛り上げ隊メンバーの藤井省三と申します。現在、生まれ育った村(西畑町と言います)で、農家民宿を営んでいます。

私の住む故郷の村と私の生い立ち

越前海岸盛り上げ隊がカバーする「福井市越前海岸」はとても長く、南北およそ30キロ。私が住む鷹巣(たかす)地区は福井市越前海岸で一番北の端です。村の真下の海は、福井市越前海岸で唯一の長い砂浜。夏はたくさんの海水浴客でにぎわいます。

私の故郷の小さな農村は他の集落と遠く離れ、農地や山林に囲まれてぽつんと佇んでいます。自然の中で遊びまわった子供の頃は、文字通り「トムソーヤの大冒険」を地でゆく少年時代でした。

物心が付くと、広い大きな世界を見てみたい、と大学進学で東京へ。卒業後現地で英語教師となりましたが、愛する両親の病気で躊躇なく帰郷。20年間の東京生活を後にしました。

帰郷後、「やっぱり田舎はええなあ~!」と!エキサイティングな都会の生活とは打って変わって、自然あふれるスローライフが郷里というひいき目を差し引いても、「本当に豊かな生活!」という思いを日に日に強くしています。

周囲には林と田畑がのんびりと寝そべり、裏山もこんもりと盛り上がって、景色全体がなだらかにうねる村の風景。そこを移ろいすぎる鮮やかな四季。

一口に福井と言っても、海岸沿いと奥越地域とでは全く異なる気候を有しています。日本有数の豪雪地帯の勝山・大野に比べると越前海岸は海岸近くを対馬海流という暖流が流れているため、雪は全然積もりませんし、たまさか降ってもすぐに溶けてしまいます。

11月初旬の今、村の秋はまだまだ秋の入口といったところ。朝晩はぴっと冷えますが、「はしり」「さかり」「なごり」とある紅葉の見ごろはまだ「はしり」。「さかり」はもう2、3週後でしょうか。

牧場を作る

ほんの最近ですが、「たかすオハナ牧場」という名前の牧場を創設しました。まだ山羊が5頭の小さな牧場です。まもなく羊がやって来ます。繁殖牛として黒毛和牛もやがて飼う計画です。

なぜ牧場を始めたか、って?その物語をお話ししましょう。

西畑の集落はわずか11世帯。そのうち空き家が2軒、65歳以上の高齢者だけの世帯が3世帯。老人世帯ではないけれども子供や青年の後継者がいない世帯が6世帯。合計11世帯。ということは、あと20年後、30年後には全戸空き家の可能性があり、廃村の危機が待ち受けている深刻な状況なのです。村には通り抜ける道がありません。村に入ってくるのは宅配屋さんと郵便配達員だけ。そんな行き止まりの集落なので、人知れずひっそりと歴史から消え去る。それは悲しすぎる。

かつては全戸が稲作農家でした。裏山の湧き水が直接流れ込む水田は美味しいコシヒカリをたっぷりと実らせました。しかし高額な農業機械の維持は取れる米の量では賄いきれず、農家にずしりとのしかかります。高齢化もあって、今ではすべての家が離農してしまいました。残された水田はやがて耕作放棄され荒れ果て、今は背丈以上に雑草が生い茂ります。その草むらに裏山から下りてきたイノシシが巣を作って日がな寝そべり、夜になると村に近寄り徘徊するようになってきました。

そうかといって、草刈りは大変な重労働です。雑草は猛暑の真夏に急成長します。それを炎天下に刈るのは熱中症、脳卒中の危険をはらみ、たかが草刈りですが命がけの作業なのです。事実、私の父はそれが元で脳梗塞を発症しやがて亡くなりました。

その雑草対策のために試験的に山羊を飼育してみようと思い立ったのが2年半前のことでした。思い出せば、我が家にはむかし山羊がいて、母が毎朝乳を搾り鍋で沸かして飲ませてくれたものです。表面の固い膜を指ですくって食べるのが大好きでした。

その山羊たちの草の食べっぷりは素晴らしいの一言です。柵囲いした田んぼは数か月で芝刈りでもしたかのようにきれいに雑草が食べ尽くされていました。さらに山羊はとても好奇心旺盛な生き物で人懐っこく、初対面の人の手からも草を食べてくれます。たちどころに山羊たちは村人や近所の子供たちの人気者になりました。また民宿にお泊りのお客さんも、間近で山羊を見るのは初めてとおっしゃる方が多く、チェックアウト前のしばしの時間、ふれあいを満喫されています。

クラウドファンディングで山羊の家を

山羊の小屋は私が自宅の庭に自作したもので放牧場からは離れており、私が用事で出かける日などは晴天でも放牧場で草を食むことはできません。一日中好きなだけ耕作放棄田の草を食べさせたい、と、放牧場に山羊の家(畜舎)を建てたいという思いがつのりました。

だが資金が無い。そんなある冬の日、読んでいた新聞で「クラウドファンディング」の記事が目に留まりました。クラウドファンディングといえば、縁もゆかりもない方々から資金を頂戴する。そんな夢のようなことがこの村に起こるのだろうか。それに、他人を頼るなんて。自己責任でやり遂げるべきでは?そんな思いも巡りました。しかし、ある人の言葉でぱっと曇りが吹っ飛びました。

自己責任というのは傲慢さの裏返しだよ。他人に頼らない、というのは、あなたが他人を寄せ付けないことでもある。自分一人の力なんてたかが知れている。他人に頼りなさい。それでだめなら、それはあなたのこれまでの生きざまがそうさせたのだと思いなさい。

厳しい言葉でしたが、まったくその通りです。失うものはありません。心を開いて、心を込めて友人知人に状況を説明しファンドをお願いしました。そしたら!何と120万円もの資金が集まったのです。もう感激と感動で涙が出ました。

それに、集まったのはお金だけではありませんでした。全国のたくさんの皆さんにこの愛する村の存在や直面している現状、そして将来の思い描いているビジョンを見ていただけ知っていただけた。つまりは、心と心が繋がれた、という熱い実感です。

牧場開設のための勉強へ

全国の観光地として成功しているところに必ず存在する条件・要素というのが5つあるそうです。それは、「見る」「泊まる」「食べる」「遊ぶ・学ぶ」「(お土産などで)買う」ものがある。

「今は民宿の「泊まる」「食べる」の2つ。残りの3つを作ろう!」

山羊たちがのんびりと放牧場に広がっているのを眺めながら、そんなことを考えていたら、ぴ~ん、と羊の風景が浮かんできました!放牧場に広がる羊の群れの風景。眺めているだけで癒されます。羊の毛刈りを楽しんでもらえ、刈り取った毛で編み物や工作体験もできます。さらに、羊ならラム肉にもなってお客様に食べてもらえる!野草にたくさん混じって生えている薬草を食べて育ったラム肉。将来、村の空き家を改装して農家レストランとし、そこでハーブラム肉のジンギスカンBBQランチなんてどうだろう。そうだ、美味しいラム肉として定評のあるサフォーク種羊を飼おう。

その調査をさっそく開始しました。周りの人たちに私のビジョンを語り始めました。そしたら、福井県の畜産試験場の方が石川県立大学の石田先生を紹介してくれたのです。もう、即行で飛んでいきました。それからやがて、先生との親交が始まり羊飼育の勉強が始まりました。家畜を飼う際の衛生管理、年間を健康に保つ飼料、そして繁殖技術と把握すべき範囲は実に広範囲に及ぶのです。

この9月には山羊や羊を売買できる「家畜商」の資格も取得!さらには、羊飼養の勉強にと、畜産仲間2名と私とで、北海道十勝へ、羊牧場へ研修に行くことが決まりました。11月9日から3日間です。繁殖、衛生管理、飼料などの実際をつぶさに研修勉強してきます。結果報告をどうぞお楽しみにしていてください。

この記事を書いた人

農家民宿オーベルジュフジイフェルミエ 藤井省三

鷹巣地区出身で、一度関東へ出たが、Uターンで戻ってきた。
農家民宿オーベルジュフジイフェルミエ と、鷹巣オハナ牧場 の二つの事業を経営するが、その根底にあるのは自然と共に暮らす彼の壮大な哲学。隊員中最年長だが、その心は若き冒険家そのもの。