アーティスト・イン・レジデンス ― 国内で活躍する若手の作家さんたちに滞在制作・展示をしてもらい、教育や地域新興を促し、文化・芸術への関心や理解を深めよう、という取り組みが始まりました。背景には、越前海岸で過疎化という現実に、地域と事業所が一丸となって、地域の魅力発信をしていこうという目的がありました。
これまで私たちは、福井市越前海岸エリア越廼地区の古民家「はりいしゃ」にて、元鍼灸師の診療所だったこの場所を、自分達の手で土壁を塗ったり、腰板を取り付ける等改修し、備品を揃え、ギャラリーとして作り上げてきました。2022年12月には、県外からアーティストを誘致し、越前和紙を使って木版画をされている田中彰さんと、葉っぱをミシンで縫うアーティストの徳本萌子さんが、7月14日から18日までの5日間、滞在制作をしに来福されました。
その時、盛り上げ隊隊長であり、ワタリグラススタジオ代表のガラス作家長谷川渡と木版画家の田中彰さんが対談する予定だったのですが、田中さんは遊漁船の船長枩田優介くんに貴重なイカ釣り船に乗せてもらうことになり、その展開が縁あって、アーティストの徳本萌子さんと対談する機会が実現しました。
地域資源がアートの分野で広がりを見せる
アーティスト 徳本萌子さん
ワタリグラス 長谷川渡
Qwel Design 伊藤大悟(インタビュアー)
以下 徳:徳本/長:長谷川/伊:伊藤
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自己紹介
伊:こんにちは、今日ははりいしゃに来ております。「海を見る植物〜plants that see the sea〜」という題された企画展で招聘されたアーティストの徳本さんと、我ら越前海岸盛り上げ隊の隊長ワタルさんが、今なぜかバイクの上に座り、ミシンを前にしております(笑)。まずは状況説明と、お二人の自己紹介からお願いします。
徳:初めまして徳本萌子です。7月10日から越前海岸に滞在しています。今日で滞在2日目になります。茨城から来て、滞在制作をしたり、展覧会をしたりワークショップの予定をしています。よろしくお願いします
長:盛り上げ隊の隊長をしている長谷川です。はりいしゃをみんなで直して利活用しようとしていたときに、おさのなおこさんという木版画家、兼地域おこし協力隊の彼女の働きによりこういう機会が実現しました。(企画展の詳細も上記関連記事をご覧ください)。
チョイノリ(バイク)の話
伊:はい、ありがとうございます。 バイクに座りミシンを前にしているんですが、お二人ともバイクがお好きなんですかね。
長:最初バイクが邪魔だから、どかそうかな〜と思いながらも交流会時、ご飯を食べながら、ちょっと酔っ払った時にチョイノリの事を熱く語ってしまい、彼女にカチッとスイッチが入って、このような形にしてくれました(笑)。
徳:そうですね、ちょっとスイッチが入った部分ではあります。元々私が「移動する植物とミシン」をテーマに制作を行っているんですけど、2021年に「ミシンカー」という作品を作って、中にミシンを搭載したオリジナルのジムニーに乗ってミシンをするということをしました。
越前海岸に初め着いた時、見るところがたくさんあり、バイク(チョイノリ)のことはあんまり意識せず、目にしていませんでした 。よくよく考えると レジデンスに、レンタルサイクルはあるのですが、原付があるっていうのは初めてで。
私、乗ったことなかったので、チョイノリはちょっと距離があるなって思っていて、でも乗ってみないと楽しさがわからないだろうなと思っていました。そんな時、ワタルさんが乗り方を教えるよとおっしゃってくださったので、じゃあ乗ってみようかなと思って、リサーチのために越前海岸の岩を彼が案内して下さいました 。
長:うん、うん。
徳:すごく楽しかったです 。
長:やっぱりエンジンがドコドコと鳴っているし、何でしょう、なんだか(体に)何もついてなくって、椅子がリアルに動くのがすごくよくって。
徳: それにこのバイクをみんなで直したんですよね。
伊・長:そうそう。
伊:僕も参加しました。
長:大悟くんともう一人3人で。3台あったんで、エンジンまでバラバラにして、ピストンから交換して、、、
伊:そうでしたね。
長:愛着があるし、このはりいしゃの雰囲気をあまり壊さない感じが優しいというか。
伊:レトロ感というか 。
徳:原付の、、、そもそもおもちゃっぽい可愛らしさがありますよね。
長:少し古いもののデザインってなんだかよくできているような気がして愛着がわきます。
徳本萌子さん、越前海岸を走る
伊:チョイノリにミシンがあり、、(徳本さんの)作品もありますね。作品を見せていただけますか。
徳:今、たまたま手元にあった葉っぱを見ているのですが、直接ミシンで縫い込まれていてお湯に濡れて溶けるシートに挟んでいるんですけれども、光る糸を使って縫っています。元々そんなにサイケデリックなものより、割と自然色を使うことが多く、ちょうどチョイノリのオレンジとクリームカラーに合わせて選んでみました 。
徳:意外とこういう(サイケデリックな)光の夜の雰囲気も越前海岸に合いますね。なんだろう、漁火の影響、雰囲気があるからかな?
伊:越前海岸らしい雰囲気を、こういう風に作品にしてくれるの嬉しいですね。
長:ね。
徳:こうやって、チョイノリも立ち寄りながらリサーチできるので、本当はもっと乗りたいところです 。ここ(チョイノリ座椅子)に乗ってワークショップ、制作用の台になってしまったのでなかなか出しづらい状況になってしまいました(笑)。
伊:ちなみにご案内した場所はどこだったんですか
長:えーとね 軍艦岩だっけ?トンネル出てから大味の海側のゴツゴツしたところとトンネル抜けて小丹生の近場に行きました。
伊:行ってどうでしたか。海の様子とか岩の感じとか。気に入っていただけましたか?
徳:そうですね。作品にして初めてモチーフに触れることができると言うか、景色を見てるだけだと分からない、綺麗だなっていうので終わってしまう。作品にしようと立ち止まって見てみると、結構それぞれの違いが分かっていいなって思います 。あと漂流物が面白いなと思ってもうちょっと滞在したかったです 。流木とか日本海ならではのものが流れ着いていました。
長:いっぱいいっぱい流れ着くんだよね。
伊:たまりつく場所があるんですよ。あれが貯まる場所、これが貯まる場所、素材によって溜まる場所が違うんです。
徳:岩のギリギリまで木が生えていたり、海の側に田んぼがあるのが本当に面白い、岩は岩場だし、山は山の中で分かれている、越前海岸はミックスされた景色というか。
長:平地が少ないんだよね。海沿いはすぐ裏山で、その狭い間に家がチョロチョロってあって。
伊:じゃあワタルさんがもし徳本さんをお誘いしてどっか行くとしたら、どういう越前海岸をお見せしたいですか?
長:そうやね、ツーリングはしたいかな 。でも案内するというよりかは本当は行き当たりばったりで、この細道行ったことないなぁとか、そういうのが面白いかなって思う。僕、休みの日は林道をバイクで走るんだけど、ときどきハッとする風景に出会ったりもする。
徳:そういうの、あるんですねジムニーがあれば道なき道を登れるかもしれない(笑)。
移動手段とアートと近所のおっちゃんと。
伊:それとさっき(対談を始める前)トゥクトゥクの話題になっていましたね 。トゥクトゥクは一体どこから出てきたんでしょうか?
長:トゥクトゥクは昨日話していた時に、トゥクトゥクのお兄さんに会って、彼女にそれを言ったら、すぐ飛びついてきて。
徳:このイメージを対談の前にみんなで共有しようと思って簡単に描いてみました。
私は見に行けてないんですが、すぐ写真を送ってきてくださって。リムジンみたいに広いトゥクトゥクなんですよ。ミシンが2台置けるかなって言う大きさ。
伊:お〜可愛らしいですね。
徳:縫ってた葉っぱがこうゆっくり進んでて、後ろに行けばたなびくような。葉っぱのロープを落としながら走って行くような。時速どのくらいなんだろう最低60Kmは出るのかな。
長:ゆっくり走ろうと思えば走れる。
徳:その方がミシンも振動しなくていい かなって思います。
長:うん、そやね、結構キュキュって、乗り心地はバンピーな感じ。
徳:ミシンをうまく固定する方法を考えなくちゃ。バンドでテーブルになんか止めるとかして、2台分バッテリー積んで。トゥクトゥクの屋根にソーラーパネルとかつけられたゆっくり動くかもしれないですね。
伊:この絵の中の人はミシンを使っているんですね。
長:鉄格子の屋根みたいな。ああいうふうなシャラシャラってなってるやつ。
徳:あ〜確かに若干、移動する植物園っぽい感じが楽しいですよね。移動するWSっていいなと思ってるんですよね。こっちから見せに行ってやるぞみたいな。待ってても来ない日っていうのがありますから。
伊:なるほど。
長:なんか盛り上げ隊の事業者さんのところにブーって行って偶然居合わせた人に会うとか、次のところに行ったらまた偶然人に会うとか面白いですよね。
徳:うんうん、確かに!面白いですよね。
徳:ランチで葉寿司を食べて、午後は葉っぱ収集(葉っぱ繋がり)で偶然会うとかいいな。
長:うんうん、そういう出会いが繋がって行くみたいな
伊:あ〜、人も葉っぱもつながり、出会いもつながるというわけですね。
徳:「ミシントゥクトゥクで巡る越前海岸 」とか。
皆:笑
長:今日(トゥクトゥクの持ち主の人に)「これ貸してやるでバーンってトゥクトゥクでツアー組めや〜、使わしてやるで〜」って言われて。
徳:商人さんみたいな?
長:ハートフルな話をしてくれたり。
徳:ちょっとこちらから話を振って、貸してくれたりするの嬉しいですよね。
長:そうやね、ざっくばらんに話してて。
後半へつづく「一瞬一瞬の出会いを形にしていくこと」
この記事に出てきた人
国見地区出身で、一度故郷を離れるも、Uターンして戻ってきた。
WATARIGLASS studio を運営する吹きガラス職人であり、我ら越前海岸盛り上げ隊の隊長。尖った人物の多い隊員達をまとめるだけあって、その眼差しは鋭いが、時にお茶目な一面も見せる。決して口数は多くないが、情熱を内に秘め、過疎化が進む越前海岸エリアの振興に尽力。
2019年末頃、東京都町田市からIターンで移住。
Qwel Design (クヴェルデザイン) として、web・システム制作、子どもプログラミング教室等事業を個人で運営。妻は版画ゆうびん舎を運営するおさのなおこ。
隊内ではシステム担当で当サイトのwebマスターを担い、熱く実直に組織改善、地域課題にも向き合う。
この記事を書いた人
福井市出身。結婚を機に越前海岸エリア内鷹巣地区へ移住。
デザイン事務所 mogurimasu を運営し、ビジネスやライフスタイルに応じてデザインされたフライヤー、パンフレット、ロゴ、商品を提案。
隊内ではデザイン担当に留まらず、古民家「はりいしゃ」の改修やアート企画、会計庶務など、多岐に渡って活躍する努力の人。
2022年には、薪ストーブと焚火を楽しむ会 薪アイアイ を設立。