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アートプロジェクト対談 橋沼みわこ×おさのなおこ(前編)

今年度はたくさんの作家さんが越前海岸にお越しいただき、関係者の皆様、誠にありがとうございました。

この度、紙工芸士の橋沼さんと版画家のおさのの二人の対談は、アートを介して私たちがこれからも続けていく「まちづくり」について、大きなヒントを示して下さったような気がします。以下、是非ご一読ください。


神奈川県藤野に在住のコラージュ切り絵作家である橋沼みわこさん、地域おこし協力隊として関わっていた版画家のおさのなおこの対談。今回、橋沼さんが来られた経緯や越前和紙を扱う作家のお一人として、興味深い内容をお聞きしました。

光があたる場所

紙工芸作家 橋沼みわこさん
版画家 おさのなおこ
Qwel Design 伊藤大悟(インタビュアー)

以下 橋:橋沼/お:おさのなおこ/伊:伊藤

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自己紹介

伊:よろしくお願いします。

伊:まず橋沼さん、ようこそ越前海岸においでくださり、ありがとうございます。

橋:はい、こちらに来るのを楽しみにしておりました。

伊:それでは、早速なんですが、おさのさん、この企画が立ち上がった経緯を説明していただけますか。

お:はい、橋沼さんは、ギャラリーはりいしゃへの招聘作家のお二人目に当たる、鶴賀さんにお繋ぎいただきました。木版画という技法のために、越前和紙を日頃ご愛用されている、版画専攻の学生時代からの先輩である鶴賀さんに、ご自身以外にも和紙を扱っている素敵な作家さんがいらっしゃるということで、ご紹介いただいたのが橋沼さんでした。そこから1年ぐらいかかってしまったんですが、今回実現でき嬉しく思っています。

伊:それでは橋沼さん、どんな作品を作っておられるかとか、 経歴なども踏まえてお話ししていただいてもよろしいでしょうか。

橋:私は元々、広告媒体や舞台衣装デザインの仕事をしていたのですが、ある時、生地をテキスタイルから起こさなければならない舞台がありまして、当時、東京N区に住んでいたのですが、その時気軽に頼める染物屋さんを探していて、たまたま新宿で見つけた富田染工芸という工房で「この柄を生地として染めることはできますか」と頼みに出向いたんですね。その工房に併設されていた「東京染ものがたり博物館」といって着物の型紙地、渋紙の博物館があり渋紙が壁びっしり全面に埋め尽くされていて、 、緻密な彫りと皮の様な紙、それが圧巻で衝撃的だったんです。仕事が終わってからも、すごく気になっていて、帰り際に「私も彫ってみたいのですが教えてください」と。今ではそんな勇気ありませんが当時はサラッとお願いしてしまいました。その時、職人さんに「どうぞお暇な時にいらしてください」とおっしゃっていただき、週に1回ぐらい足を運びました。職人さんに道具の使い方や渋紙の話などあれこれ教えていただくうちに、小学校の校外体験授業「渋紙を使っての型染め体験」のお手伝いをすることになりました。

橋:その後は私自身の切り絵のポストカードや小物を販売して頂ける流れにもなりお付き合いが始まりました。

橋:ちょうどその頃、妊娠していた事もあり舞台衣装が最後の仕事でした。子どもが産まれたら切り絵を自宅で細々と始めたいと思ったきっかけにもなりました。子どもが小さいうちは机ひとつで、練習じゃないですけどずっとひたすら彫っていました。

今回お持ちいただいた作品の数々。鯛、雪、扇などをモチーフにしたぽち袋やメッセージカード
お正月に向けた趣を感じる作品

橋:それを仕事として始めたのが、確か子どもが小学校に上がるか上がらない時で、少しずつですが店舗にカードやしおり、文具やモビールなど、身近で使っていただけるものを置いていただけるようになりました。

手仕事&アートの必要性

お:2011年には東北大震災があってから、作家はマーケットや出店する場所を失い、売れ行きが落ちていたような気がします。そして今、コロナがやってきて、そうですね、時代としては手作り品や手仕事の品の価値が見直されてきているのかな。

お:橋沼さんは手仕事の価値ってどう思われてますか。

橋:今住んでる藤野は、様々なジャンルのものづくりの方がいます。そうですね、、、割とその価値が何なのかっていうのは皆分かっていると思います。作り手の心を感じる楽しみ方を分かっているというか。気付く感性を持っている方が多くいると思います。

伊: 多分おさのさんも福井に出てきて思うことが何かあるのかな。

お:私もここに来て、初めて街づくりということに関わり、「まちづくり」と「アート」というものを掛け合わせたときに、自分には何にもできないと思わされることの方が多いと感じていました。例えばこういう空間を作りたいと思ったとしても、地元の人から必要性を感じられず、不安なまま活動していました。

お:でもこの3年の協力隊の任期の間に鶴賀さんを初め、何人かの作家に実際この空間に作品を並べていただき、一つ一つの企画を通して、少しずつですが地元福井の方にも、目の前で、ここの存在価値のようなものを感じてもらえているような瞬間瞬間を見ることができました。

橋:そうですね、藤野も一昔前まで芸術が「わからない」「どう理解するのか」と思う方が多かったと思いますが1944年藤田嗣治さんや猪熊弦一郎さんなど数十名の芸術家達が戦果を逃れに来ました。

お: あ、それ、「疎開」ですかね。

橋:そうです、そうです。周辺から「なんだ芸術って?」と。 よくわからないけど受け入れていたという経緯がありました。

お: 戦時中ですもんね。

橋:その後、じわじわとではありますが芸術家達は自然を求めて移住してきたと思います。急激に増えたきっかけは2015年にシュタイナー学園が出来てきてからだと思われます。シュタイナー学園に対して町の人はすごく戸惑っていた様ですが、1人の理解者の受け入れがきっかけで紆余曲折しながらも「シュタイナー学園」として設立出来たと聞きました。

お:今や藤野といえばシュタイナー教育のメッカですよね。

橋:そうですね。

一人の理解者と時間が解決するもの

橋:移住者受け入れはいい事だけでなく認識のズレや価値観の違いで問題があったりした様ですが新たな事や楽しいことをする時って必ず何かありますよね。一見芸術とかに興味ないのかなって思うようなおじちゃんでも、気づけば今はお互いを理解しあえてる。年月だけでなく、小さくとも歩み続ける事をしていなければここまで発展していなかったと思います。これは藤野だけではないですよね。日本人は外からの人や価値観の違う人を異分子としてみて受け入れ難いという習性を持っていると思いますので。藤野に移住してきて10年という年月ですが、お互いの距離は縮まったと思います。

橋:おさのさんは3年かかっているんですね。もう少し時間はかかりますかね。 

伊:キーは「時間」と「一人の理解者の受け入れ」があったということですね。ここで、おさのさんに話してもらいたいのはここ福井では「伝統工芸」があり、長く続いている土壌がアートにどう影響を与えているかということ。

橋:福井県は伝統工芸や地場産業などがありますよね。

お:そうなんですよ、越前の伝統工芸というのは素晴らしくて、和紙をはじめ、箪笥だったり打刃物だったり漆器だったり、伝統工芸の歴史が深く積み重ねがあり、既存の伝統文化の重厚さゆえに新しいものが入り込む隙間がないように当初感じましたが、よくよく関わってみると、古いものの中から新しいものを生み出そうとするいう動きもちゃんとあることに気づきます。なんといっても、版画家としては、越前和紙の生まれる現場の魅力は何にも変え難いものがあります。

お:福井に来てからは、和紙の職人さんに細やかな部分までオーダーができることが本当に嬉しくて、感動して、ここのギャラリー立ち上げ初めの時には、それを会場に来られる方とも共感できるような企画を実施したいと思ったんですね。自分の作品を制作して発表するだけでは伝わらないと思ったんです。それよりも、ご縁のある、和紙に精通している方を離れた地からお呼びしたいと。さらに、ご自身のフィールドで、越前和紙の良さに改めて光を当ててもらえるような、そんな機会になればと思いました。

お:その流れで、今回橋沼さんをこちらにお呼びでき、版画とはまた違う、切り紙作品というものでギャラリーに展開していただくことができ、とてもよかったです。和紙の生まれる現場へもご同行いただき、改めて職人さんと触れ合うことで、勉強になることも多々ありました。

後半へつづく「白い和紙

この記事に出てきた人

システム担当 / Qwel Design 伊藤大悟

2019年末頃、東京都町田市からIターンで移住。
Qwel Design (クヴェルデザイン) として、web・システム制作、子どもプログラミング教室等事業を個人で運営。妻は版画ゆうびん舎を運営するおさのなおこ
隊内ではシステム担当で当サイトのwebマスターを担い、熱く実直に組織改善、地域課題にも向き合う。

版画ゆうびん舎 おさのなおこ

2019年末頃、東京都町田市からIターンで移住。
版画ゆうびん舎を運営し、版画作品、版画を使った日用品・デザイン等を制作し、地域に開かれた版画教室を主催。2019年~2022年は、越廼・国見地区の地域おこし協力隊に就任し、ガラス作家で隊長の長谷川らと共に、古民家「はりいしゃ」でアート関連事業を数多く手掛ける。

この記事を書いた人

デザイン担当 / mogurimasu 鈴木淳子

福井市出身。結婚を機に越前海岸エリア内鷹巣地区へ移住。
デザイン事務所 mogurimasu を運営し、ビジネスやライフスタイルに応じてデザインされたフライヤー、パンフレット、ロゴ、商品を提案。
隊内ではデザイン担当に留まらず、古民家「はりいしゃ」の改修やアート企画、会計庶務など、多岐に渡って活躍する努力の人。
2022年には、薪ストーブと焚火を楽しむ会 薪アイアイ を設立。